Interview Relay ~42のストーリーで想いを繋ぐ~
My Tokyo Marathon is…? 私の人生を変えた、日々を頑張れる糧
- 支える人
東京マラソンへの想いを42のストーリーで繋ぐインタビューリレー。
今回は東京マラソン財団運営統括本部の新田 祐己(にったゆうな)さんです。
安全・安心を確保するためスタートからコース、フィニッシュをはじめ、救護対応や警備計画をなど各関係各所と調整するという大会運営周りをメインに行っている部署になります。メインの業務としては、ランナーが目指すフィニッシュ地点周りの施設や行政との調整や車いす・エリート・一般のランナー、ボランティア、観客などに向けた企画・検討・調整などを担当する立場から見た東京マラソンの魅力や価値、そして節目となる2027年の20回大会に向けた展望などを語っていただきました。
もっと多くの方に東京マラソンを好きになってもらいたい
――過去の経験や背景なども踏まえ、東京マラソン財団の職員になられた経緯を教えてください。
ひと言で、「東京マラソンが好きだから」という理由です。もともと中学・高校で陸上競技部に所属するなど陸上競技が好きだったこともあり、職員になる前はVOLUNTAINERとして東京マラソンでボランティア活動をするほか、審判員としても陸上競技には携わっていました。
社会人になってからも様々な角度から東京マラソンに携わる中で、私自身の心の中で「陸上競技が好き」という気持ちよりも「東京マラソンが好き」という気持ちの方が上回っていることに気付いたことが最大のきっかけでした。もっと多くの方に東京マラソンのことを好きになってもらいたい、より一層魅力的な大会にするために少しでも力になりたいと思い、職員になることを決心しました。
――東京マラソンの職員になる以前は東京マラソンのことをどのように感じていましたか?
関わる全員が主役になる、お祭りのような日だなと感じていました。国内外からエリート選手が一堂に会すエリートレースももちろん盛り上がりますし、それぞれの目標を掲げて42.195kmを楽しみながら走る一般ランナーの皆さんの姿も印象的です。さらに雰囲気を楽しみながら活動するボランティア、ランナーの姿に声援を送る観客も多くいらっしゃいます。全員が「今日の主役は自分だ!」と言わんばかりに三者三様に楽しんでいるように見え、まさにお祭りのような一日だと思います。
特に、初めてVOLUNTAINERとして活動に参加した際には、第1回大会から活動されているベテランの皆さんにボランティア活動の醍醐味を教えていただきつつ、支える立場から大会を全力で盛り上げて楽しもうという熱量を体感し、たくさんの学びや仲間を得ました。VOLUNTAINERとして活動して得た経験を誇りに思いますし、あの経験を経たことで今の私がいます。
大会運営としての工夫や難しさ、意識していること
――運営統括本部は大会においてどのようなことを担う部署ですか?
『世界一安全・安心な大会』を実現させるべく、大会の根幹を担う部署だと考えています。住宅でいうところの基礎の部分です。安全・安心を確保するための救護対応や警備計画はもちろんですが、エントリーしていただくところから始まって、参加案内等の事前のご案内、ランナー受付、そしてスタートをして記録が計測され、コースでは給水や給食を摂りつつフィニッシュまで走り、大会後には記録証が発行される等、ランナーが体験する「東京マラソン」というストーリーの検討も運営統括本部が担当しています。なお、ここにおけるランナーとは一般の部だけではなく招待選手や、エリート・車いすエリート選手の対応も含まれます。
そのほか、大会前にはコースを実際に歩き路面状況やコーンバー等の設営物の配置を検討するといったような、直接皆さんの目には触れないような作業も多々あります。現在、運営統括本部には13名が在籍しており、それぞれ役割分担をして一年に一度の大会期間に向けて調整・計画の検討をしています。
――運営統括本部として東京マラソンならではの工夫や難しさなどがあれば教えてください。
一般ランナーとトップアスリートが一堂に会するビッグイベントということで、安全・安心な大会となるように調整と検討を重ねる部分に最も注力し、時間をかけています。「国内外のランナーの皆さんに大会当日のレースを楽しんでもらう」という目標はもちろんなのですが、新宿からスタートして東京駅前でフィニッシュするという、世界一人口が密集する都市の大動脈を交通規制するコース設定なので、様々な事業者の皆様と多岐にわたる調整が必要となります。
また、38,000名が出走するとなると関わるスタッフ等の人数、仮設トイレ等の必要なものの数、廃棄されるごみの量などとにかく数量が増えます。そのような中でもランナー受付やスタートではいかにストレスが少なくレースに臨める環境を作れるか。コース上においては交通規制し大会を開催するために地下鉄や歩道橋を活用することへの事前調整や広報の実施。そしてレースを終えたランナーを迎えるためのフィニッシュエリアの計画。更には、記録を目指して先頭を走るエリート選手がエキサイティングな展開を繰り広げられるように、緊張を和らげレースに集中できる環境づくりを心がけています。
東京マラソンの大会期間はランナー受付から当日まで4日間しかありませんが、その4日間のために1年間かけて、財団内の他部署との連携や協力会社と検討するところから始まり、関係する皆様にもご理解いただけるようにご説明と調整をさせていただいております。
――「東京がひとつになる日。」として東京の街を舞台に開催する東京マラソン。大会運営として意識していることを教えてください。
首都東京で開催される東京マラソンは、多くの皆様のご理解・ご協力を得なければ開催できない大会です。大会当日にスタート、コース、フィニッシュとなる道路や公園はランナーにとっては晴れ舞台となりますが、日常生活で利用している方々にとっては非日常となります。地域の方々にご理解いただけるように、ご不便を少しでも解消することも私たちのチームの役割だと思います。
そのために私たち運営目線で思い描いていることを実現させるべく、当日現場で活動いただくVOLUNTAINER、審判員、スタッフの皆さんへ、大会運営の情報をいかに具体的且つ分かりやすく共有できるかを意識しています。
また、スタッフだけでなくランナーへ分かりやすく伝えることも大切だと感じています。近年では海外ランナーの参加割合も増えてきている中で、“TOKYO”で開催される大会ならではの仕様や注意事項などをご理解いただくために、参加案内をはじめとしたランナー向けの情報配信を行っています。既存のツールを活用する他に、どのような施策や発信を行えばより大会に対する解像度を高められるのか、まだまだ検討の余地があると感じています。
価値は関わる全ての方々によって作り上げられている
――“東京”にとって東京を舞台に開催する東京マラソンの存在、価値は何だと思いますか?
私自身が東京出身なので、職員になる前から地元東京で世界に誇るビッグイベントが開催されることをとても誇りに思っていますし、多くの方に誇りに思っていただけるような大会にしたいなと考えています。
普段は車で走るような都心の道路のど真ん中が、大会当日は38,000名で埋め尽くされ、沿道からは声援が飛び交い笑顔があふれる……その様子はいつも見慣れた街でも、不思議と全く違う景色のように感じます。こんなに東京が活気で満ち溢れ、「頑張れ!」や「ありがとう!」と前向きでポジティブな言葉が飛び交う日は他にないと思いますし、不思議と私も応援されている気分になってしまいます。関わる皆さんも、「マラソンを走るために明日からまた練習しよう」とか「自分もがんばろう」といったように、少しでも前向きな気持ちになれる日になると嬉しいです。
――エリート選手、一般ランナー、ボランティアにとって東京マラソンの存在、価値とは何だと思いますか?
ランナーやボランティアの皆さんが東京マラソンを選んで参加してくださるということは、何かしらの存在価値を感じていただいているということだと思います。世界中から集まるトップ選手と対決をしたいからなのか、大会の雰囲気を味わいながら走りたいのか、ランナーの支えになりたいからなのか……。大会のコースなどに魅力を感じていただいている方もいるかもしれませんが、ランナー×ボランティア×観戦者の皆さんによって作られている魅力も多いと思うので、東京マラソンは関わる全ての方々によって作り上げられているなと改めて感じます。
私たちが「これが東京マラソンの価値だ!」と打ち出すよりも、関わる皆さんならではの何万通りのご意見があると思うので、是非伺いたいですね。
――東京マラソン財団は、「世界一安全・安心な大会」、「世界一エキサイティングな大会」、「世界一あたたかく優しい大会」を3本の柱にして、『世界一の街東京で、世界一の東京マラソン』を実現していきたいと掲げています。これについて運営統括本部としてどのように感じ、どのような取り組みを行っていきたいと考えていますか?
まずは「安全・安心な大会」を担う部署として、死亡事故0を目指していくこと。そして、世界屈指の高速コースという特性を活かし、東京マラソンで日本記録・世界記録の樹立が達成されるような「世界一エキサイティングな大会」を目指すこと。さらには、地域の方々の不安の解消や車いすの横断対応などを実践し「世界一あたたかく優しい大会」を実現させることを目指しています。
性別・年齢・障がいに関わらず、東京マラソンに関わる全ての方々が笑顔になれるような取り組みができるよう、運営統括本部全員で実現できることから一つひとつ検討し、積み重ねていきたいと考えています。そして、東京マラソンを通してマラソン文化の盛り上げに貢献できれば嬉しいです。
得られる経験・体験を唯一無二なものにしたい
――ご自身にとっての東京マラソンとは? #MyTokyoMarathon is…?
My Tokyo Marathon is reason for living.(人生の糧)
ふとしたきっかけでボランティア募集にエントリーし、活動を続けるなかで様々な仲間と出会い、大会を支え盛り上げる楽しさを知り、東京マラソンを長く続く大会にしたいと思い、気付けばここにいます。私自身、東京マラソンに出会って人生が変わりました。
仕事として携わっていると、大変なことや思い通りにならないことも多いのですが、大会のためなら取り組めるし乗り越えられる。なので、東京マラソンは私にとって日々を頑張れる糧です。そして東京マラソンという存在が、私以外にも誰かの人生の糧になるといいなと願っています。
――今後の東京マラソンをどのように発展させていきたいと思っていますか? または発展をしていくと見据えていますか?
2027年大会で第20回を迎える東京マラソンですが、これはあくまで通過点です。第1回から大会を進化させ続けてきた諸先輩方の想いと共に、東京マラソンというストーリーをランナー・ボランティア・観客の皆様と共に紡いで50年、100年先にも繋いでいくために、未来の世代へと継承し永続的な大会にしていきたいと思います。
そのためには大会が更に盛り上がっていくことは必須ですが、同時に持続可能な大会であることも大事だと考えています。サステナビリティへの取り組みとして、大会運営で排出される廃棄物のリサイクル・リユース等を推進することや、大会開催前より大会終了後の方がきれいな街になることを目標に清掃活動を実施するなど、持続可能な大会に一歩ずつでも近づけるように施策を検討しています。
また、今後より一層グローバルな大会運営を求められていくと思いますが、東京マラソンならではの良さ、お祭りのワクワク感のようなものを無くさないように大切にしたいと思います。
――その他 東京マラソンへの想いをお願いします。
多種多様な趣味の選択肢があり、何を選ぶのも個人に委ねられている現代社会において、どのような関わり方であれ敢えて「東京マラソン」を選んでもらうためには、関わることで得られる経験・体験を唯一無二なものにして、魅力的だと感じてもらうしかありません。東京マラソン独自の価値を様々な切り口から創出し、飽きられることがないように進化し続けなければいけない。それはとても難しいことだとは思いますが、永遠の課題として、運営統括本部だけでなく職員全員で知恵を出し合って取り組んでいきたいです。
まずは目の前の東京マラソン2025に向かって、「大会を開催する」というだけでなく「よりよい大会の実現」を目指し、全力で業務にあたりたいと思います。